外国人政策に関する規制改革の方向性

2005/10/20

関西学院大学 井口 泰

 

注)本稿は、2005年10月20日に、内閣府「規制改革・市場開放推進会議」の「外国人移入・在留ワーキングチーム」の会合に提出したものと、細部除いて同じ内容である。

 

1. 日本の外国人政策の変遷

 

 わが国の外国人政策は、1952年の「外国人登録法」に象徴されるように、国内の外国人政策は、サンフランシスコ講和条約で日本国籍を失った在日韓国・朝鮮人、在日中国人への対応に終始した。また、1960年代半ばから、閣議において、国内の高齢者や女性の雇用機会を確保する観点から、外国人労働者の受入れは行わない旨の労働大臣の口頭了解が繰り返し行われてきた。

 

 1979年の人権規約の批准により、関係法令から国籍条項が除去されたが、在住外国人の国内における地位の見直しについて、本格的な議論は行われなかった。

 1980年代後半から、円高の進行と日本企業の東南アジア進出が加速するなか、アジア諸国からの外国人の流入が増加し、さらに、南米日系人の就労が増加した。

 

 こうしたなかで、1989年の経済計画及び雇用対策基本計画以降、「専門的・技術的労働者は可能な限り(現在は「積極的に」)受け入れるが、いわゆる単純労働者については、慎重に対処する」という、2本柱の外国人政策が確立され、1990年6月、改正「出入国管理及び難民認定法」が施行された。  また、同年9月に、中小企業団体による外国人研修生受入れが認められ、1993年4月には、行革審第3次答申を受けて、「外国人技能実習制度」が、関係省庁の協力によって実現された。また、非正規雇用として就労する外国人が顕著に増加すると同時に、在留外国人の定住化が次第に進み、地域社会では、外国人子弟の増加など新たな問題が生じている。

 

 この間、日本経済はバブル崩壊の後、1990年代半ばから、デフレと急速な若年人口の減少に見舞われるなか、アジアでは中国経済が台頭し、国内の生産拠点の海外移転が続いた。

 

 しかし2004年には、デフレも終局を迎え、一部で国内生産拠点の再評価が進み、国内設備投資が増加している。なお、2005年上半期に日本人人口は予想より早く減少し始めた。

 

2. 外国人政策の「日本モデル」とその問題点 

 

 こうして形成された日本の外国人政策は、アジア諸国との関係を考慮しつつ、また、経済学的に考えると、それなりの合理性を有していると考えてよい。

 

 即ち、日本の外国人政策を、出入国管理政策のみならず、経済援助、産業政策、雇用政策などを総合して観察すれば、「政府開発援助や対外直接投資を通じ、アジア諸国の経済開発と雇用創出を支援し、これら諸国からの不熟練労働者の受入れを抑制する一方、企業内転勤で当該地域に高度人材を派遣し、外国人研修生や留学生を受け入れて、途上国への技術移転を促進する。同時に、高度人材の受入れについて、日本の経済活力を高める観点から、積極的に対応する。」ものと考えられる。

 

 日本の外国人政策は、不熟練労働者を受け入れないことを明確にしているため、国際社会から、しばしば誤解に満ちた批判を受けてきた。それにもかかわらず、その経済学的論理構造は一貫している。これが、いわば、外国人政策の「日本モデル」というべきものであり、海外の移民専門家からも、一定の理解は得ている。しかしながら、近年、この「日本モデル」には、様々な問題が顕在化してきたように思われる。

 

 

  第1に、外国人(ニューカマー)を多数受け入れる自治体が増加したにもかかわらず、国として、在日韓国人・朝鮮人向けに導入された制度を見直したり、地域における外国人対策を強化せず、関係省庁の外国人施策の整合性を確保する措置も講じてこなかった。さらに、高度人材以外の労働者を全て「いわゆる単純労働者」という言葉で受入れないこととしており、高度人材と不熟練労働者の間にある広範な熟練労働者について、どのように養成し、どの範囲で受入れるべきかという議論をしてこなかった。

 

 第2に、東アジア諸国との経済連携に当たって、看護師や介護福祉士など、当該地域で長期的に人材開発の必要性の高い労働者すら、東アジア全体の視点から養成と移動を進めるという視点に欠け、例外的な受入れ措置として扱っているに過ぎない。

 

 第3に、若年層の急速な減少と技能継承問題の顕在化、日本企業の国内生産拠点の再評価の動きは、「日本モデル」の修正を迫っているが、労働需給という視点のみから外国人政策の見直し自体に難色を示す省庁があるため、政府の対応に柔軟性が損なわれている。

 

3. 規制改革の方向

 

 本来、日本の外国人政策の論理は一貫しているが、近年、その矛盾が顕著になっているので、規制改革の推進に当たっては、これら諸問題の解決を図りつつ、外国人政策全体の見直しを進めるべきである。

 

 第1に、外国人の「在留管理の改善」に関する議論を進め、地域における外国人政策(欧州の用語では、社会的統合政策)を、出入国管理政策と並ぶ、外国人政策の第2の柱として位置づける。また、市町村レベルにおける国の行政の整合性と市町村との連携を確保するため、「外国人情報システム」の導入について検討する。

 

 第2に、拡大解釈されている「いわゆる単純労働者」という言葉の範囲を限定し、高度人材(原則として大卒以上)よりも、やや低い技術・技能レベルの外国人労働者について、受入れ範囲に含めることを検討する。その際、「エンジニア」よりひくい「テクニシャン」レベルの受入れを念頭におく。後で述べる通り、①高等学校終了、②日本語検定2(1)級、③技能実習の終了などを要件として、正規の外国人労働者としての在留資格を付与する方向が考えられる。

 

 第3に、東アジアとの経済連携協定に伴う人の移動に関連し、政府内部で、当該地域における総合的な人材開発と移動に関する戦略を検討するように求める。同時に、在留管理の改善などの国内的措置と併せ、二国間で柔軟な形で協定を締結し、外国人労働者の権利の保護と義務の履行を図るための法的措置について研究を進めるよう要請する。

 

 第4に、外国人政策の推進に当たって、国内の労働需給や、地域の雇用失業情勢などが適切に反映される仕組みについても検討を進め、日本人の雇用機会を確保しながら、これと補完的に外国人政策が実施されるような制度的仕組みについても検討する。これによって、外国人政策について検討を進める上で政府内部に生じる障害を除去する必要がある.

 

 以上のような理由から、本WGにおいては、当面、外国人研修・技能実習制度との関連を考慮しながら、在留資格の見直しに着手することが適当と考える。

 

4. 技能実習制度との関連での在留資格の見直し

 

(1)技能実習制度の抱える問題

 1993年の技能実習制度により、技術移転を通じた国際貢献という制約の下で、労働関係とともに技能の向上を図る仕組みを導入された。この制度は、労働力の受入れのためでないという政府の立場はわかるが、企業では、労働力確保の側面を無視することはできない。

 

 研修生受入れの単年度の限度率(原則)5%を前提し、研修生が1年後に順次、技能実習生に転換して3年を限度に就労した場合、当該企業は、常用労働者の合計15%(中小零細企業では、さらに上回る率)まで、外国人に依存できるという実態がある。 

 

 また、最近でも事業主や仲介業者、又は送出側団体が、技能実習生から法外な管理費などを取り立て、残業させても手当を支払わないなどの事件が起きている。ただし、国際研修協力機構(JITCO)は適正化指導を強め、失踪率は一桁台に抑えられている。

 

 現状では、技能実習生が日本語に熟達し、日本の技術の習得に努力しても、帰国後は再来日できず、得た技能を発揮する仕事にも就けない者も少なくない。また、帰国前の半年間、技能実習生のモチベーションが低下し、失踪のインセンテイブも高まるという。

 

 

(2)就労目的の在留資格の新設の可能性

 技能実習生の問題を解決する一つの方向は、技能実習制度とは別に、技能実習修了生に就労機会を開くような在留資格を新設することである。現行の在留資格(例えば「技術」では「エンジニア」)では、4年生大学の卒業で得られる高度な知識を用いた活動を基準としているので、高校卒業後2年程度の教育訓練を受けた「テクニシャン」を基準とし、新たな在留資格を整備することが考えられる。

 

 例えば、①高校卒業又は同程度の一般教育を修了していること、②日本語能力試験で2級(又は1級)を取得していること、③一定以上の実務経験(又は同等の職業教育)を有すること(例えば、日系企業で4年以上、技能実習で3年修了、現地で認定された職業訓練施設で2年以上など)、④一定以上の技能評価を受けていること(技能検定又は企業の技能認定など)場合に、日本国内での就労を認めることとすれば、技能実習修了者を含めた技能労働者に、日本国内での正規就労を認めることが可能になるだろう。

 

 このように、技能実習制度の適正化とは別に、日本語能力の高い「テクニシャン」レベルの外国人に就労機会を与えることで、技能実習生のモチベーションを高め、制度の運営を改善することを検討すべきであろう。                                 〔了〕